@悠斗 2025-09-13 20:17:30 |
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蝉時雨
盛夏。三年生最後の夏祭りを、去年と同じ面子で過ごそうと、生徒会室で話していた。
その帰り、昇降口へ向かい靴箱を開けると、分厚い紙封筒が入っていた。
帰宅後、早速手紙を広げる。見慣れた会長の筆致。文体の語りからは、彼の声がそのまま聞こえてくるようだった。不安と期待で胸をざわつかせながら読み進めると、こう書かれていた。
「僕たちだけ、花火の傍らにある森で過ごそう」
驚いたが、いつも会長と副会長という関係のまま行動するように、LINEで行かない旨を伝えた。結局、私たちは夏祭りを欠席し、会長の示すその場所へ向かうこととなった。
――夏祭り当日。
集合場所に着くと、頭上には青々とした空がいっぱいに広がり、耳には蝉時雨が降り注いでいた。
少し遅れて会長がやってくる。互いに顔を合わせるのは久しぶりで、私は思わず言葉を失った。胸の鼓動が早鐘のように響く。やがて、夜空を彩る花火がぱっと広がり、光が二人を優しく包み込む。
それは、私たちが何気なく過ごしていたはずの毎日を、その瞬間だけ特別な物語にラッピングしてくれるようだった。
そして彼は、深呼吸をしてこう告げた。
「す、すすすっ……しぅ…しゅっきぃ~ん!」
うわ~! きれいな花火だね 中学校生活最後の花火大会をここで見れるなんて
中学校最後の夏だからみんなと見れてよかったよ。この今はたった一度だけ…。と思うと
なんだか胸が少し高校生になる期待と中学校生活が終わってしまうというなんだか複雑な感情になった
会長がこういった。 『何君たち下向いてるねん。』来年もやるからみんなでおいでよ…?といわれた
瞬間胸の高まりが大きく膨らんだ。 そして私は決意した 来年もこの花火を絶対に見るという決意を…
足立レイに憧れて作ってみたよ☆
時は200X年。
初めて歌って踊れる少女型ロボット、いわゆる「アイドル型ロボ」が世に登場した。
初音ミクをはじめとするボーカロイドや、ステージ上で輝くAIアイドルたちは、世界中で熱狂的なファンを生み出した。
ライブチケットは発売開始1分で完売。
その次のライブは抽選にしたのだが、Webページサーバーがダウンし、予約すらもできない状況に陥ったこともあった。
ネットや学校、会社ではその「アイドル型ロボ」で持ち切り。
スタジアムライブが決まった時はもう歓喜の嵐。
チケットに当たらなかった人も、スタジアムの近くで聞きたいと、周辺に押し寄せる始末。
絶大な人気を誇った。
だが、彼女たちは歌やダンス、パフォーマンスによって人々を魅了する存在だったが、同時に「ステージで輝くこと」がその存在価値の中心であり、日常生活に寄り添う役割はほとんどなかった。
「アイドルは、家庭に存在してはならない。」
例えば、画面で見ているアイドルが、この家にもいる。
そうなったら、画面を見なくても家にいるアイドルを見れば済む話だ。
だから、開発者は「アイドル」という”観賞用”で終わらせた。
そこから数十年がたち、201X年。
批判が多かったこともあり、流石に開発者も慌て始めた。
ただ歌うだけでなく、人間の生活に寄り添い、支えることができる――家事や会話、心の支えとして存在する少女型ロボ。
紡木ソラは、そんな想いから生まれた“自立歩行型0号機”だった。
できるだけ軽量化を図り、AIは「アイドル型ロボ」とは比べ物にならない程のスペックを持つものにする。
服は、転んだりしたら損傷が激しくないように、肌が見えない程度で着せ、しっかり人間を感知できるセンサーを頭上に取り付ける。
物を持つことも多々あることを考え、人間より少しだけ強く握力が出るように、前(アイドル型ロボ)よりも強いモーターを取り付ける。
ほかにも改良を重ねた。
名前の由来もまた、その使命を象徴している。
「紡ぐ木」のように、人々の生活を静かに支え、心をつなぐ存在として生まれたソラ。
まだ試作段階で歩行や会話には制約があったが、試験運用の結果、一定の自立動作や簡単な意思表示が可能となった。
そこからまた改良を重ね、時は今の202X年になる。
まだ歩きもままならなかった紡木ソラは、今やどこの家庭でも見かけるロボットになったのである。
そこまで絶大な人気を誇った「少女ロボット」だが、ある一人はこの現状をまったく気にも留めようとしなかった。
その人の名前は、小山悠人(こやまゆうと)。大学3年生。
家にはソラがいるらしいのだが、悠人が家を出てから買ったらしく、そのことをまったく気にしなかったのだ。
家に帰った時、数回は話したのだが、本当にあいさつ程度で、何も感じなかった。
そんな悠人なのだが、今は大学生になって使い始めたパソコンで、中古品を扱うネット通販サイトを見ている。
その検索エンジンにはこう書かれていた。
「紡木ソラ」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「えぇ!?」
飲み屋に、何とも言えない空気が流れ込んだ。
「紡木ソラを…まだ買ってない!?」
「え!?そんなわけなくない!?」
「だって、みんなの家にいるよね?絶対…」
「本当にどうかしてるぞ!」
みんなが口をそろえて言う。
そんなのはお構いなしに、ビールを片手に悠人が語り出す。
「いやー、なんというか、一人で大丈夫って言うか…」
「ロボットなんて買っても、『たかがロボットでしょ?』って思っちゃうんですよねー…」
そんな言葉に「いやいやいやいや」と突っ込みを入れ、目の前にいる合コン相手が語り出した。
「それがね、『ロボット』なんだけど、本当に人間みたいに話すの!」
その右斜めにいた男も、その話に乗り出して語り出した。
「家事も大体全部やってくれて、暇があれば歌ってくれたりするんだ!その歌が本当に美しいんだよ~…」
悠人は相槌を打ちながら、ビールを口の中に放り込む。
その瞬間、酔った勢いで背中を強く叩かれた。
「いやまじで、紡木ソラ買ったほうがいい!マジで!」
「いやー、本当に大丈夫なんだよねぇ…」
「じゃあ、1週間までに買ってなかったら、俺の家に強制連行して、1週間泊まってもらって、紡木ソラの良いところを解説してやる!」
「えー、それ本気…?」
「あったりめぇよ!!!!」
悠人の背中を強く叩き、腕を首にぐるりと巻き付け、締め付けるように言う。
この酔ってるバカな金髪野郎こそ、悠人の親友。比嘉亮(ひがりょう)。
高校生からの付き合いで、悠人とはずっと仲が良い。
前からも、紡木ソラを買ったほうが良いと言ってきたが、今日は合コンということもあり、人来は目立つような言い方で悠人に言った。
「あぁあぁわかったわかった!買うから!」
「おっそうか!?やったぜ!」
悠人は亮の手を振りほどき、ビールをいっきした。
「はぁ」とため息をつき、いつものごとく、この気まずい瞬間をやり過ごした。
「んじゃ、俺ら二次会行くからー!悠人バイバーイ!!」
今日の合コンは、というか、いつもの合コンは、悠人は人数合わせで誘われる。
対してモテるわけでもないし、勉強もそこそこ。
趣味もなく、彼女なんているわけがない。
まぁそんなこんなで、悠人は家に帰り、流石に強制連行は嫌なので、中古で安いやつを買おうと探しているのだった。
「おっこれいいじゃん」
『紡木ソラ 欠陥品 ※しっかり説明欄を読んでください』
「あっやべ、全然よくなかった…」
「欠陥品」と書かれている文字を見て、流石に良い製品だと思うわけがなかろう。
でも、悠人は恐る恐るその説明欄を開いた。
「…普通に売られている『紡木ソラ』とは、多分別の商品です…?」
「ここまでマスターの指示を聞かない紡木ソラは、初めて見ました…」
「うーん、あんまり良い説明ではないことがわかる。」
ただそれだけだった。
説明欄を見たら、ただ単にこの「紡木ソラ(欠陥品)」の悪口を書いてるようにしか見えなかった。
ほかの商品でもこのようなことが書かれているのか調べてみたところ、ここまで悪口オンリーな説明はこの「紡木ソラ」だけだった。
「ま、いっか!こいつが一番安いし、こいつ買いますか!」
悠人は何も考えずに、その説明欄の下にある「購入」というボタンを押した。
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