Ghost Finder ThomasCarnacki 2025-01-24 22:31:52 |
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9月9日草露白
日日草は映画部に所属していた。
部長から祖父が危篤で今日撮影場所の確認に行けないという連絡が入ったのは、日日草が集合場所についてすぐのことだ。また別の日にしようと言われたが、ここまで来たのだから写真撮ってきますと返事をした。
スマホで先ほど撮った場所を確認していた。ここで撮影するならライトは2つは必要かもしれない。その場所は神隠しホテルとして有名な場所だった。むしろ有名になりすぎて暴走族や不良のたまり場になっていたらしく、 建物のほとんどの壁に様々な色のスプレーで落書きが残され、床は泥がこびり付き、元の色さえわからない。らせん階段だけが唯一その場所がホテルであったことを想起させた。
饐えた臭いが鼻を掠める。顔を上げると顔があった。猿のように全身を長い毛が覆い隠す。唯一毛が無い顔は、皮膚は弛み眼光は炯々している。大猿は身を屈め真上から日日草の顔を覗き込んでる。見開かれた目玉に日日草自身の強張った顔が映っている。大猿は唇が捲れるほど大きく笑いだした。引き笑いのような独特な声だ。目の前の大猿が笑うたび、大猿の息が日日草の前髪を揺らす。その血腥さに息を詰めた。
身体は強張り、日日草の足は凍りついたように微動だにしない。大猿の笑い声は更に大きくなり建物の壁に反響する。唇は目玉につきそうなほど捲り上がっていた。
遠くで何度か何かがぶつかる音が聴こえる。次の瞬間には何者かが大猿に衝突した。その者が振りかぶった杖は大猿の目玉に突き刺さり、日日草の顔にどろりとしたものが降ってきた。叫び出しそうになるが喉はからからに枯れて、空気だけが通る。硝子製の何かが床に転がる。その硬質な音に弾かれ、ぎこちなく足を動かした。背後からは大猿の絶叫が聞こえていた。
日日草が咄嗟に駆けこんだのは客室だ。立てつけが悪い木製の扉を必死に閉め部屋の隅に座り込み息を殺した。大猿のものだとわかる怒りに満ちた声と硬い物に衝突している空気の揺れ、そして時折誰かのひび割れたような声が聞こえた。
建物中を震わせるような怒号が聞こえた後、一切の音が止む。日日草は扉ににじり寄り隙間から様子を窺う。大猿は床に倒れていた。まだ手足は細かく痙攣している。杖を手に持つ者がそれを見下ろしていた。深く被ったフードの中が見える。麻布から覗くその目は煌々と光り、口からは何かが垂れ、到底人間のものとは思えなかった。
ひきつけを起こしそうになるのを日日草は懸命に抑えた。扉から蛞蝓が這うような速度で離れる。扉の向こうからは何かを引き摺って行く音が聞こえた。
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