Ghost Finder ThomasCarnacki 2025-01-24 22:31:52 |
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雷乃収声(かみなりすなわちこえをおさむ)*
この街に住む人々の間で、梅雨明けの頃に囁かれる奇妙な噂がある。夜中に雷が鳴り止む瞬間、街のどこかで「声を奪われる」現象が起こるという。犠牲者は二度と自分の声を発することができなくなり、代わりに雷が鳴るたびに、かつての彼らの叫び声がどこからともなく響き渡る。
フリスクリスは、この都市伝説を耳にし、興味を持つ。彼は調査を進める中で、奇怪な現象の中心にある「廃ビル」を突き止める。だが、その場所で彼が聞いた音と体験した恐怖は、単なる都市伝説では片付けられないものだった――。
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夏の蒸し暑い夜。フリスクリスは、雷が鳴り響く街の中で録音機材を手にして歩いていた。彼は都市伝説や怪奇現象にまつわる音を収集し、独自に研究を進めるアマチュアオカルト家だった。
ネットで拾ったこの噂が本当なら、雷が鳴り止む瞬間に何かが起こる。それが音響的な異常現象なのか、それとも――。
歩き回るうちに、彼はある古びたビルの前で足を止めた。周囲の明かりが不自然に少なく、他の建物とは異質な静けさを感じさせる場所だ。
SNSに投稿された目撃情報では、このビルの近くで“雷の音が消えた瞬間に悲鳴が聞こえた”という話がいくつも寄せられていた。
フリスクリスはビルに入り、機材をセットした。雷の音を録りながら、何か異常が起きないか待つ。薄暗い廊下を照らす懐中電灯の光だけが頼りだ。
1時間、2時間と何も起こらなかった。しかし、深夜0時を回った頃、突然、雷の音がぴたりと止んだ。
同時に、耳をつんざくような悲鳴が響いた。
「……誰だ?」
フリスクリスは声の方に向かい、廊下を進んだ。だが、そこに人影はない。代わりに、壁に無数の手形が浮かび上がっているのを目にした。
さらに進むと、突然録音機材が異常なノイズを拾い始めた。それは雷の音でも人の声でもなく、まるで何十人もの人間が一斉に何かを囁くような不気味な音だった。
耳を澄ませば、ノイズの中に「助けて」「返して」といった言葉が紛れ込んでいることに気付いた。
その瞬間、背後から低い男の声がした。
「お前の声も……いずれここに加わる。」
振り返ると、そこには顔のない黒い影が立っていた。影は腕を伸ばし---
翌日、フリスクリスは街を彷徨うように歩いていた。声を奪われた彼は、何も話せないまま。
そして雷が鳴るたびに、彼の失った声がどこからともなく響き渡り、新たな「雷乃収声」の噂が広まることになるのだった――。
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