高道くるみ 2025-12-09 15:38:18 |
通報 |
2 話
あれから、僕と彼女の美咲の関係は、より深く、確かなものになった。あの日の涙と告白は、僕らが互いの心に真剣に向き合うための、痛みを伴う重要なステップだったのだ。僕は、美咲の抱えていた苦悩を理解し、彼女は僕の誠意を受け入れてくれた。僕たちは、言葉の限界と、それでも言葉を尽くすことの大切さを学んだ。
その日も、いつもと変わらない週末が始まろうとしていた。今日は、僕の提案で少し遠出をして、海を見に行くことになっていた。今度こそ遅刻はしないようにと、僕は待ち合わせ時間の30分前には駅のホームに立っていた。美咲は時間ちょうどに、穏やかな表情で現れた。
「待った?」
「ううん、今来たところ。行こうか」
電車に揺られながら、他愛もない話をした。天気のこと、最近読んだ本のこと、大学の講義のこと。美咲は時折、車窓の外を眺めながら、ふっと笑みをこぼす。その横顔を見て、僕は昨日の自分とは違う、成長した自分を感じていた。心が読めなくても、彼女の今の幸せな気持ちは、僕に伝わってきていた。
海に着くと、潮の香りが僕らを包み込んだ。きらきらと光る水面が眩しい。僕たちは砂浜を歩きながら、改めてゆっくりと話をすることにした。
「最近、お父さんとお母さんとはどう?」僕は少しだけ勇気を出して尋ねた。
美咲は、少しだけ遠くを見つめて答えた。「うん、少しずつ前向きに話し合ってるみたい。すぐに解決するわけじゃないけど、ちゃんと向き合うことが大事なんだって、私が学んだから」
彼女の言葉に、僕は胸が熱くなった。僕らが経験したことは、彼女自身の家族にも良い影響を与えていたようだ。
「もしあの時、僕がすぐに君の異変に気づけていたら…」
僕が言いかけると、美咲は僕の手を握って首を横に振った。「違うよ。あの時、あなたが私の前で立ち尽くしてくれたから、私は自分の心と向き合えたの。もし心が読めたとしても、きっと私はその事実に甘えて、自分の言葉で想いを伝えようとしなかったかもしれない」
僕らは、互いの目を真っ直ぐに見つめ合った。心が読めなくても、相手を思いやる気持ち、そして言葉にすることへの努力が、どれほど大切かを再確認した瞬間だった。
「ねえ、もしまた私が何か悩みを抱えたら、言葉がなくても気づいてくれる?」美咲がいたずらっぽく笑って尋ねた。
僕は強く頷いた。「当たり前だろ。僕らはもう、言葉の向こう側にある心を感じ取る方法を学んだんだから」
言葉は不完全かもしれない。けれど、その不完全さがあるからこそ、僕たちは互いに歩み寄り、理解しようと努力する。もし心が読めたなら、世界は確かにシンプルかもしれない。でも、言葉を尽くし、時にはぶつかり、そして深く理解し合うという、この複雑で美しいプロセスは存在しないだろう。
僕の手にある、今度はちゃんと渡せたイチゴミルク味のアイスキャンディーが、少しずつ溶け始めている。でも、僕の心は昨日よりもずっと温かかった。僕たちはこれからも、言葉という架け橋を渡り続け、互いの心に寄り添っていくのだろう
|
|