ひより 2013-02-13 22:04:04 |
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行かないで、何処にも行かないで。
ずっとずっと側に居て。
お願いだから、離れないで居て。
チュンチュン、と小鳥が鳴く。
まだ低い位置にある朝日が私たちを優しく包み込むように照らす。
朝だよと言わんばかりの眩しさに、強く目を閉じた。
目尻には冷たい感覚があり、しばらくしてから私は泣いていたのだろうと理解出来た。
さっきまでの夢は何だったのだろう。
不思議な、夢。
「んんっ…」
大きく伸びをしようとして腕を伸ばそうとするも、隣で寝ている人物によって遮られた。
痛いぐらいにきつく抱き締められており、離して貰えそうな気配は一切無い。
けれど、この苦しいほどの抱擁さえも愛しいと思えるのは、私を抱き締めているのが他の誰でもない、光だから。
伝わってくる低めの体温も、愛しい。
名前を呼んで抱き締め返してみせると、やっと起きたのかふにゃりと微笑んだ。
普段は滅多に見せない柔らかい表情に、ふと小さな笑みが零れた。
「おはよう、光」
「ん……」
まだ少し、否、かなり眠そうな目を頑張って開ける光が可愛くて頭を撫でたくなった。
少しもぞもぞと動いて私を抱き締める、光。
先程とは比べ物にならない程、優しく柔らかい抱擁だった。
「……泣いてたん?」
「え?」
私の目尻に残っている涙の痕に優しくキスをし、問う。
何だ、バレちゃったのか。
「私でもよく分からないんだけどさ、なんか夢見ちゃったんだよね」
「夢?」
「そう。女の子がね、行かないでって何度も暗闇の中で叫んでた。」
多分、その女の子は私なんだよと付け加えてみせると、光は助けに行けんでごめんと謝りながら私の頭を撫でた。
どうしてこうも貴方は優しいのだろう。
どうしてこんなにも無償で愛してくれるのだろう。
私はこんなにも、優しさに欠けているというのに。
「助けに来てくれなくても、良いの。」
「……ん?」
「こうして光が隣に居てくれて、笑ってくれて、抱き締めてくれたらそれで良いの。」
「おいで、なまえ」
彼の言葉の通り、彼の腕に収まる。
私は、覚えている。夢が覚める直前に、誰かが優しい声で私の名を呼び、おいでと言ってくれたのを。
きっとその優しい声の主は光なのだろう。
今、正にその優しい声で私を誘ったのだから。
「ねえ、光?」
「ん?」
「光って名前、光にぴったりだね」
「どうしたん、急に」
「ふふ、何でもない」
あの暗闇の中で私に優しく話しかけてくれたのが本当に光ならば、きっと夢の続きは輝かしいものになったのだろう。
声のする方へ行ってみれば、きっと光が居て、今私に見せている笑顔で笑ってくれるのだろう。
そして、暗闇にヒカリを射してくれるのだろう。
キミという名の、眩しいヒカリを。
夢の続き
(キミが居てくれるなら)
(あの夢が続いても構わない)
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