ひより 2013-02-13 22:04:04 |
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唯一、彼女だけだった。
俺を一人の人間として見てくれるのは。
『財前くんは狡いね』
『だって、天才やもん』
『出来て当たり前やろ』
違う、違う。俺はそんな風に羨ましがってほしい訳じゃない。
俺に期待するのはやめてくれ。
だって、俺は天才なんかじゃないから。
才能はあっても、俺は天才じゃない。
そう思いたい。
だって、こんなにも、不安に押しつぶされそうになるのだから。
こんなに弱いのが天才と呼ばれてるということを本当の天才が知れば笑うだろう。
俺を天才と呼ぶことが俺を追い込んでいるのだと、誰か気付いて。
期待に応えられへんかったら必要とされへん。
天才じゃない財前光は、必要無い。
そんな等式は勝手に作らないでほしい。
俺はお前らと同じ高さに居ることを、知って。
お願いやから、本当の俺を誰か知って。
「泣いてるの?」
突然現れた見知らぬ女子。 ベ
ンチでぼーっとしている俺の前に不安げな表情を浮かべながら立っていたのだ。
泣いてるなんて、とんでもない。
「泣いてる」
「泣いてへんわ」
「ううん、泣いてる」
「泣いてへんって…」
皆と同じ位置に居れないことなんて重々承知してるし、もう慣れっこ。
やのに何で今更になってこんなにも寂しいんやろう。
何で、今更。
「……」
涙は、出ない。
でも、何故か心が痛いのだ。
何かが染み込むようで、痛い。
長い年月を経て出来た傷が、濡れる。
「泣けば良いのに」
「は?」
「無理して笑ってるのは見てるこっちが辛いから。凄く痛々しい。」
名前も知らん女やのに、何でこいつはこんなにも関わろうとしてくるのだろう。
何でこんなにも俺の痛みに気付いてくれたような言い方をするのだろう。
全く無関係の他人の筈なのに、何故。
「……っ、」
「ごめんね、何も知らない私がこんなこと言って。
でも凄く辛そうだったから。
それじゃ、私はもう行くね」
「行かせへん」
「え?」
俺に背中を向けた彼女の細い腕を自分の方へ引く。
そのまま自分の胸へと誘った。
後ろからぎゅうっと抱き締めれば、壊れてしまいそうな程小さくて細かった。
俺の腕に、これまた小さな手を静かに添えて、大丈夫だよと言わんばかりのリズムで優しく叩いてくれた。
この人なら、気付いてくれるだろうか。 俺の痛みに。
今まで積み重なった小さな痛みたちに。
気付いて、くれるだろうか。
君は、年中冬の僕の心に咲いた華。小さな小さな冬の華。
名前を聞けば雪村美桜と名乗った。
3年2組らしい。
……先輩やったんか。 めっちゃタメ語で話してた。
「美桜先輩」
「ん?」
「ありがとうございました」
「どういたしまして。」
目を細めて笑う彼女が、眩い。
この人なら、受け止めてくれるだろうか。
「先輩、俺と付き合いませんか?」
この痛みをぶつける場所ではなく、受け止めてくれる存在が欲しかった。 ただ単に隣に居て、俺自身を見てくれれ ばそれで良い。
ここが俺たちの始まりだった。
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