pelidot 2013-05-18 16:53:19 |
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夜中の二時、突然目が覚めた。
嗚呼、そういえば九時ぐらいに寝てしもたんやったっけと思いながら机の上に置いてあった携帯を手に取り、まだ起ききっていない目で新着メールを確認した。
メールは知らないアドレスから。
少しだけ、見慣れたアドレスに似ていたから吃驚した。
開いてみると、どうやら謙也さんからのメールらしく、携帯を変えたからメアドも変わってんとのこと。
もうあの人がメールなどしてこないことは分かっている。
なのに、今でもこんなに期待してしまう。
もしかしたら、電話してくるかも知れへん、とか。
一緒に帰ったあの道に、居るかも知れへん、とか。
時折甘いキスに夢中になったあの公園なら、会えるかなぁ、とか。
彼女と別れたのはもう一年も前の話。 財前くんに好かれてる自信が無いんだ、ごめんねと最後に告げた彼女。
彼女のことは大好きだった。
今も、俺だけが過去にすがりついている。
好きやのに素直になれんくて、どれだけ不安にさせたかなんて計り知れないだろう。
最後の最後まで、俺は自分の想いを告げられなかった。
自分の、彼女に対する未練には呆れさえ覚えた。
もう、彼女は前に進んでいるかもしれないのに。
違う人を愛しているかもしれないのに。
もう、俺との過去など頭の端にさえ置いていないかもしれないのに。
それでも、小さな小さな可能性に小さすぎる期待を抱いている俺が居る。
それは、突然のこと。
携帯が、鳴り出す。
この着信音は、彼女だけの物だ。
「先輩はこのバンドが好きやから」と言って設定したもの。
自分でもびっくりするぐらいの早さで携帯を確認する。
画面には、見慣れない数字の羅列。
「も、もしもし…」
震えた声で電話に出ると、電話の奥で彼女がクスッと笑ったような気がした。
『あ、財前?俺やけど』
「…何で謙也さんが…」
『俺携帯変えてん。登録よろしくな』
「今何時やと思てるんですか。あほちゃいます。早よ寝てください」
もしかしたら、俺が世界で一番愛する彼女からの電話なのではないかと一瞬でも思った俺は馬鹿だ。
だって、先輩が電話なんてかけてくる筈なんて無いのに。
ましてやこんな時間に、俺に、なんて。
すまんすまんと平謝りする謙也さんに少し苛々したので、ほなまた明日と言って終話ボタンを押した。
外を見れば、綺麗な夜空。
時折瞬く星々を、電話しながら眺めたことを君は覚えていますか。
月が綺麗だねって、大好きだよって、照れながら言ったことも、俺はきっと忘れないだろう。
もしも君が涙を流しているなら、俺が今すぐその涙を拭いてあげたい。
もしも君が俺を探しているなら、俺が力いっぱい抱きしめたい。
もしも君が俺以外の人の隣で幸せを噛みしめて笑っているなら、俺は心の底から祝福出来るように強くなって、ありがとうの言葉を捧げよう。
たった一人の、君へ。
今でも君を、愛しています。
どうか、片時でも心を通わせた人よ、あの美しい日々を忘れないで。
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