pelidot 2013-05-19 19:25:06 |
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LOST-WAGE ―あの日の空へ―
「――で?」
警視庁唯一の女性刑事である榛奈緒美(はる・なおみ)がいれた紅茶を啜り、麗は、顔を下げたまま三越に問うた。
その一文字の後に省略されている問いを読み取り、なるだけ簡潔に質問する三越。
「麗…成人男性が、メールで送られた動画を見て死ぬって有り得るか」
「――、」
若いIT工学者の顔に、極々僅かにだが―不満そうな表情が浮かんだのを、三越は見逃さなかった。
だが、敢えて何も突っ込まず、返事を待つ。
彼は、たっぷり5分程も沈黙した後、ぼそっと言った。
「………有り得る、んじゃないですか」
その答えに、同席していた警官の全員が色めき立った。
「ただ、条件がかなり多いです。――まず、被害者が心臓に持病を持っていること。そして、その動画が、被害者の嫌いな分野、又はトラウマとぴったり一致していることも必要です。」
ほう、と、同席者の一人の笹原警視が声を漏らした。
麗が、唇の端に笑みを浮かべて言った。
「――それにしても、成人男性が死んだ現場に、当時ちょうどに動画添付メールが送られて来てたなんて、あなたたちも随分めんどくさい事件追っかけてるんですね」
それを聞いた三越が、つかみかかる。
「――おいお前、誰から聞いた?」
「……別に。僕の推測です」
三越が、ばたっとテーブルに倒れ込んだ。
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