pelidot 2013-05-19 19:25:06 |
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LOST-WAGE ―あの日の空へ―
OPENING
「一条!!ヘタってんじゃねぇこの馬鹿野郎!!」
30分間走を終えて、3年生の先輩たちと同じタイミングでゴールをぶっちぎって倒れ込んだ麗の耳に、エアライフル部の顧問である倉田の怒鳴り声が届いた。
「罰として、トラック10周5分以内に走れ!5分以上かかったら、連帯責任で昼飯前に部員全員校庭20周!!」
頼む一条、これ以上走ったら俺たち死ぬ――と、麗の同級生たちは目線だけで懇願した。
肩を竦めて、はぁい、と返事をする麗。
そして、副部長の天平塚雄一に向かって訊いた。
「天平塚先輩、ぶっちぎり4分台出しちゃってオーケーですか?」
「――おう出せ、倉田の奴のこと真っ青にしてやれ!」
雄一から、激励ともつかぬ激励が飛んだ。
「んじゃ、一条麗、2000m行きまーす」
倉田の「用意、スタート」の号令で、麗は思い切り地面を蹴った。
後ろから、倉田が追走してくる。
「先生も走るんですか?」
怪訝な顔で訊いた麗に、倉田は、にやりと笑って言った。
「お前がズルしないようにな」
「あ、そう。なら、午後も30分間走一緒に走るんでしょ?程々にしといた方がいいと思いますよー?」
結構失礼な事をさらっと言い、麗はスピードを上げた。
予想通り、倉田は、麗のぶっちぎり本気にはついてはいけなかった。
一周を約24.8秒で切った麗は、倉田と2周以上の差をつけてゴールした。
さすがに中学時代に陸上部で鍛えてきたとは言え、陸上部とエアライフル部の掛け持ちはかなりキツい。麗の額には、うっすらと汗が滲んでいる。
「――つーかお前よ」
部長が、げんなりとした顔で言った。
「03,58.08は、さすがにやり過ぎだって」
その麗の、2000m03,58.08は、渋谷幕張高校の新記録として記録された。
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