背後のシャッターが密やかに下りていく。
目を開けば、そこは無人の地下鉄駅。
構内は微かな耳鳴りが聞こえるほど静かだ。
「作戦開始五分前。各分隊長は状況知らせ」
きつねは左耳のインカムに指を添えて言った。
『アルファ配置完了。問題なし』
『ブラボー配置完了。問題なし』
『チャーリー配置完了。ですがすみません、チャーリー・フォーのコンディションが……』
「戻らない?」
『はい……』
「無理させなくていい、離脱させて。欠員はフォックストロット・ツーが埋める」
──きつねはなぜだか全く緊張していなかった。
作戦立案の後、二週間に渡って行われた、任務中に発生しうるあらゆる状況を想定したシミュレーション訓練のおかげではない。
NIJ規格にしてタイプⅣ相当──.30-06スプリングフィールド7.62x63mmの徹甲弾さえ食い止める炭化ホウ素製防弾プレートと衝撃吸収用のトラウマパッドを入れたプレートキャリアに安心感を覚えているわけでもない。
ましてや肩に担いだ、フルサイズ弾による高貫通力と優秀な基礎設計からなる確かな信頼性を備えたPKM汎用機関銃がテロリストに風穴を開けることを期待しているからでもない。
何一つ、理由が分からなかった。
「デルタ分隊はどうか」
『デルタ配置完了。問題ありません』
「よろしい。エコー分隊、緊急離脱ルートの確保は?」
『ブリーチ完了。一番、二番、四番開通。されど三番経路内に民間人あり』
「了解。エコー分隊は当該ポイントを防衛せよ。三番は民間人退去が終了し次第、速やかに発破すること」
『了解』
不思議な心地だ。これから命のやり取りをするとはとても思えない。これは油断なんだろうか。
「小隊長より各員へ。作戦は定刻通りに開始する」
妙な胸騒ぎを覚える。肌がぴりつくような、そんな感覚が漠然とある。
それでも、心は不自然に凪いでいた。
本当に、上手くいくのか?