通りすがりさん 2025-08-31 11:21:01 ID:c44e4f23f |
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◯1日目
「ちりりり ちりりり」
朝鳥の鳴き声によく似た目覚まし時計をとめる。時刻は7時、これから準備して学校に行くには申し分ない時間だ。固まった体をほぐし、窓を開け換気をする。外から聞こえる鳩の鳴き声も蝉にかき消される、なんてことない夏の1日。そう、思っていた。
「ホーホーッホッホホー、ホーホッホッホホー」
鳩の鳴き声が、蝉の音をかき消している。小さな、しかしあり得ない異変が、この町に確実に近づいている。しかし当時の僕は、どうしても気付けなかったんだ。
「そろそろ、朝ご飯食べに降りるか。」
鳩の鳴き声を口にする謎の人物が、不敵に笑って姿を消した。
「まずい、遅刻だっ」
くそ、誰がオーブンが故障してるとわかる!トーストを食べたいと思ってパンを入れたら最後、開閉口が壊れたのか何なのか、微動だにしなくなりやがって!結局パンは食えなかったし、朝ご飯抜きとかふざけるな…。
『時間が止まってたんじゃない?』
心のなかで不平を言う僕に、確かに誰かがそういった。
「ん?え、誰ですか!?」
遅刻してるにも関わらず思わず足を止めた僕を責めないでほしい。責めるべくは、僕の足を止めさせたコイツ―「誰も、いない?」
夏にも関わらず薄ら寒く閑散とした通学路を、小首をかしげて走る。なんて器用な真似はできないから、今起きた不思議なことは忘れて、とにかく全力で走った。この判断が、後の命取りになるとも知らずに。
「キーンコーンカーンコーン」
「おい鈴木。おまえなんで遅刻してきたんだよ。」
そういったのは友達の山田。デブだが体格がよく、強面だが笑顔は爽やかなデブだ。
「いや、そのぉ朝ご飯に手間取って、、、結局食べれなくて。」
「それは太ってる俺に喧嘩売ってんのか?あぁん!?」
そういって腕を振って目をギラつかせる。山田は友達だが苛めっこだ。ここでいう友達は同じクラスの人間を指していて、彼を友達ということは僕もみんなからクラスの一人と認められている、と思うために必要なことなのだ。だからこんなのを友達という僕を責めないでくれ。責めるならこのデブを責めてくれ。そう心のなかでまたも他責に陥る僕に、山田は確かにこういった。
「おまえなんか、友達でもなんでもねぇよ!!」
確かな異変が、徐々に町を蝕み始めている。異変はやがて、全てを飲み込むだろう。
『人は無く、世はなく。私は蝕み、この地を血で治め、安楽で包み込む。』
安楽の生は無く、あるのは死のみ。ならば「この」世は、治めるにたるものではない。翻訳するとこんなとこだろうか。我はこの御方に恩があり、故に生涯をそばにて全うすると誓った身なれば、これから7日間で起こる全てを受け入れなければならない。その全てを受け入れた時、私に「生涯」というものはあるのだろうか。いや、すでにもう残っていないのではないか。
『案ずることはないぞ。そう、全ては安楽生の実現のため。』
あぁ、やはりこの御方は、全てを統べるに足る、素晴らしい御方…。
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