Ghost Finder ThomasCarnacki 2022-09-10 22:23:08 |
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原付を押し、向きを変え帰ろうとしようとした瞬間、ハザードランプかひとりでに点滅し、思わず原付から飛び退いた。主を失った原付がアスファルトに音を立てて横たわり、かちりかちりという規則的な音だけが張り詰めた空気に響く。
そのまま放置して帰ってしまいたかったが、家まで徒歩だと何時間かかるのかさえわからない。古びた電話ボックスがトンネルの傍にあることに気が付き、地獄に仏かと駆け寄る。財布に唯一有った小銭を枚数も数えず公衆電話に捻じ込み、家の電話番号を押す。呼び出し音が鳴るだけでなかなか出ない家族に苛立ちを覚えていたが、電話の向こうから受話器を取った音がし、トリルは意識して出した気丈な声で話す。
「今、トンネルのとこで…」
ふっと受話器を当てている耳に湿り気を帯びた息が吹きかけられる。思わず耳を押さえ飛び退いた。全身の毛が逆立つ。放り投げた黄緑色の受話器がゆらりゆらりと揺れるのをじっと息を潜めて凝視する。背中にびっしりと掻いた汗でシャツが張り付く。
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