Ghost Finder ThomasCarnacki 2022-09-10 22:23:08 |
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廃村とはいえ日本の田舎らしい風景が広がる中、その者の風貌は場違いに思えた。劇場から飛び出してきたようなベネチアンマスクに長いコート。銃かと思っていたものの先には大きな銛がついている。
一瞬話しかけようとしたがすぐに足が竦んだ。
その者は柱に括られたロープに繋がれた鹿に向かって銛を撃つと貫通させ、じりじりと引き寄せていく。鹿は必死で抵抗しようとしたが巻き取られていく鎖には勝てなかったらしい。地に伏したそれに再度銛を刺すように撃ちこむとその身体を軽々と持ち上げる。背中に深々と刺さった銛は体内を抉りながら口を出口と決めたらしく、その鈍色を覗かせた。悲鳴と共に抵抗するように出鱈目に振り回されていた手足は動きを止めた。小さく痙攣する身体は脳からの電気信号が絶えたことにまだ気が付いていないようだ。
その光景を作った者の口角は上がり、楽しんでいるのがきつねには手に取るようにわかった。
きつねの足元で砂利が鳴り、喉がか細く音を立てる。その者と視線がぶつかった。周囲に視線を遣るが遮蔽物になりそうなものは自分とその男の間にある石垣を除けば、ないに等しい。銃を向ける男の鋭い眼光にきつねは吸い込まれた。忍び寄るかのような寒さを感じ、転げるように廃村から逃げ帰った。
きつねは廃村から一人暮らしのアパートに帰った。ポケットに入れていた石はどこかに落としたのかなくなっていたことが救いと言えた。
しかし、鏡や窓ガラスに映った自身の影や物音に怯え、あの日から1ヶ月経った今も、友人の家に頼み込んでしばらく身を置かせてもらっている。その友人と久しぶりに部活に顔を出したときその話を投げかけられた。
「―――おい、聞いたかよ。あのハナシ…」
「…なんだよ。もったいぶんな」
「お前がやってたバイトの話。あのバイトして行方不明になった奴多いんだぜ」
友人は何名もの名前を挙げていく。他の友人は羽振りが良かったからどっか海外で豪遊でもしてるんじゃないかと茶化す。
あの日から2週間後、依頼人からのショートメールは一度届いていた。しかし返信をする勇気が出ず、そのまま放置したがその後依頼人からメールも電話もない。
──依頼人に死んだと思われた?
──死んでもいいとおもわれていた?
きつねは1人、身を凍えさせた。
ENDー「逝い」バイトー
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